季節の変わり目だからでしょうか。なんだか心が、わさわさする日が続いていました。果実は色づき、黄金に輝く稲を抱える田んぼは次々と収穫作業が行われ、本来なら豊かな気持ちになるはずなのに。そしてまるで逃げ込むように、行きつけの園芸店に足を向けました。 いつ訪れても季節の花々が咲き、色彩豊かに並んでいて、ただ見ているだけでも、重いため息の塊のような気持ちがほぐれていきました。「枯らし名人でも大丈夫な花は何かしら?」。店の奥様と話しながら、予算の範囲内で心に響いてきた花たちを籠の中へ。太陽のような温もりを求めていたのか、手にした花はいずれも橙色から黄色を基調とした小花たちでした。寄せ植えをするのは何年振りでしょう。殺風景だった玄関が急に華やかになりました。 室内のインテリアを秋模様に替え、トイレに飾っていた絵葉書も秋の花の絵柄に。ささやかなことですが、そうしてすこおし心が穏やかになって、これまた久しぶりに包丁を研ぎました。一つは、初めて独り暮らしをする時に母が買ってくれたもの。もう一つは、店を再開する時に義理の兄から頂いた、いずれもステンレス製ながらちょっと上等な品です。シュッシュッシュッ。数分間、素人技で研ぐだけでも切れ味は格段に上がりました。心も、感性も、道具も、手をかけてあげなければ錆びてしまいます。近いうちに鋼の包丁も研がなくちゃ。珠玉の言葉があふれる小説もじっくり読みたいものです。(2017.10.6)
紡だよりVol.18 手をかけるということ
更新日:2019年1月11日
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