夕飯は、出前の酢豚セットを会社で。日付が変わる直前に帰宅した後は柿ピーナツとビール。翌朝の朝食は9時頃、会社でサンドイッチと珈琲――。今から約20年前、就職したての私の食生活はひどいものでした。冷蔵庫の中はビールと干からびた野菜だけ。たまの休みに一念発起するも、次の休みまでコンロに火をつけることすらない、といった悲惨な台所。慣れない仕事と忙しさ、若さを言い訳に、食生活のことなど考えたこともありませんでした。 そんなある日、ストレスとプレッシャーと仕事を抱え込んでランチに立ち寄った店がありました。お勧めのメニューを頂くと、何だか力が湧いてくるような。一人で、ただ黙々と食べているだけなのに、心も体も穏やかな状態になったことを今でも覚えています。料理とは本来こんなに人を温めるものなんだ、と驚いたものです。後で知ったことですが、そこは素材や調味料、料理法にこだわった自然食レストランでした。 転勤で出雲に移り、行く先々で見る畑で旬の野菜を覚えるようになりました。同じトマトでも、冬にスーパーで売られているものと、夏に露地で完熟になったものとは違う。魚も、冬場脂ののったワカナが夏はイマイチ、鯵はその逆でした。産卵前の7月頃のシジミが一番美味いというのも教えてもらいました。 食べ物は体を作る不可欠なものなのに、日々蔑ろにしている私。多くのことを知り、自分の体の変化を感じると共に、私のような他の人にも、そのことを伝えたい――それが「紡」のきっかけでした。同時に、食に携わる農家や漁師、酪農家、杜氏や醤油屋などの思いも知れば知るほど、合わせて届けたい気持ちが強くなったのでした。 夏は体を冷やす役割を持つ茄子やトマト、キュウリを一杯頬張りたい。新鮮な鯵や飛び魚も堪能しよう。ちょっと上等の天然塩はミネラルたっぷりで汗で失った塩分も適度に補給してくれる。梅で仕込んだシロップや、赤紫蘇で作ったジュースも適度な酸味と甘味が暑さにバテた身体を癒してくれる。クーラーやかき氷もいい。でも、夏の暑さに対応できる体の本来の機能を育てることも大事と思います。食べ物が、体を作るのです。 (2015.7.24)
紡だより Vol.2 原点
更新日:2019年1月11日
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