夏の暑さが和らぐ頃、田んぼの脇に一斉に咲き始める花に気づいたのは10年ほど前のことです。鮮やかな赤は、彼岸(ひがん)花(ばな)。まるで暦を知っているかのように秋の彼岸前後に開くことに毎年感心させられます。特に茎に毒を多く含み、日本では元々、田を荒らすモグラやネズミを追い払うために人為的に植えられたものだと聞いたことがあります。 そうして昔も今も、獣害対策をして、肥料をやり、農薬を散布し、暑い最中に草取りや水の管理をして、苦労して育てた稲を、一瞬で価値のないものにしてしまったのが先日の栃木・茨城県などでの大水害でした。春先の田おこしから半年以上かけた手間が一瞬で消え去るのです。「自然の脅威を改めて知った」。肩を落とすベテラン農家の言葉に胸が苦しくなりました。 単なる感傷で終わらないのは今年、夫の実家の梨栽培を例年以上に間近で見ていたせいかもしれません。寒い時期の剪定や肥料やりこそ手伝っていないものの、春の花粉取りや授粉を子供と共に手伝い、収穫や箱詰めにも参加しました。何千という袋かけ、急斜面での数度の農薬散布など、聞いているだけでも気が遠くなりそうな作業です。しかし、その丹念に育てた梨を台風が落とし、カラスが突いて穴を開ける。商品価値がなくなり、出荷できなくなる。自然との闘いです。昨今、自然環境に左右されず、ビル内で野菜を栽培する“工場”も出てきました。しかし自然災害によって電気やガスが長期間止まればどうなるのでしょう。 消費者の立場に立てば、値段が安いにこしたことはない。私もそうです。でも生産者の立場を考えれば、人々の命を育む糧を生んでいる農業や漁業などに対する敬意が余りにも低い気がします。「金を払っているんだから」とレストランで平気で残される方もいる。でも目の前の皿の上に来るまでに経てきた人の手と心、食材にもっと思いを馳せてほしい。最近、とみに災害が多いように感じるのは気のせいでしょうか。自然は今、怒っているのかもしれません。(2015.9.25)
紡だより Vol.4 自然の忠告
更新日:2018年8月27日
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