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  • 執筆者の写真tsumugi

紡だより Vol.9 五感で味わいたい

更新日:2018年8月27日




 我が家の小さな庭で、最初に“春”を教えてくれたのは木いちごの新芽でした。まだコートが手放せない頃から、にょきにょきと顔を出し始めました。次はクリスマスローズだったでしょうか。昨年の葉っぱの陰から薄緑色の新葉やつぼみが恥ずかし気に立ち上がり、気が付けば可憐な花を見せ始めました。  街が満開の桜を惜しむ頃には、ジューンベリーの白い花が咲き、地面に這ったタイムが薄紫の花弁を開きました。季節の移ろいをまるで体現するかのように、刻一刻と庭は変わり、浅春から暮春まで同じ瞬間のないことを教えてくれました。  そんな春のある夜、桜が華やかに咲き誇る米子市の街中で、藤沢周平の短編集を語りと三味線で味わう会に参加してきました。元テレビ局アナウンサーが、季節にふさわしい藤沢氏の小説を朗読。合間合間に、これまた情景に寄り添うような三味線の唄と音色が響きました。語り手も弾き手も女性で、装いは小物に粋をこらした春らしい着物。小さな会場はまるで別世界のような空気に包まれました。  思えば、物語を誰かに読んでもらい、それにじっと耳を傾けることなんていつ以来でしょうか。一人、目で追って読書をするのも昔から好きですが、“読み聞かせ”の魅力はまたひと味違うような。筋を捉えて読みがちな普段に対し、耳から入ってくるストーリーは情景が豊かに脳裏に広がりました。頭を使って読むのでなく、物語に溶け込んでいくような。子供が読み聞かせを喜ぶのが少し分かったような気がしました。  目や口って意識して使うことが多いけど、耳っていつも無意識に使っていることが多いような気がします。聴こうとしなくてもいつの間にか耳を通じて、身体に入る音がたくさんあります。鳥のさえずりや風の囁き、葉っぱのざわめきだけでなく、近年は自動車のエンジン音や電化製品の“声”、つけっぱなしのテレビなどで耳は疲れていないかしら。たまには丁寧に紡がれた言葉のマッサージで耳を癒してあげることも大事なように思います。そうしてきっと、感受性も磨かれていくのでしょう。(2016.4.28)

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