1月から2月の始めにかけて紡のメニューに登場するのが、赤貝ご飯と粕汁。大阪育ちの私にとって、アカガイと言えば、寿司ネタの貝のイメージしかなく、初めて食べた時には「炊き込みご飯にするなんて!」と驚いた記憶があります。調理してくれたのは、酒蔵の賄いを作ってくれていた地元のおばちゃん。今の紡のレシピもおばちゃん直伝のものです。 約8年間関わっていた日本酒造り。冬の間は泊まり込みで作業するため、蔵人たちは朝昼晩の食事に休憩、寝床も常に一緒でした。拘束時間が長く、辛い作業も多い中、唯一の楽しみとも言えるのが食事でした。季節の食材を使った、素朴かつ愛情のこもった品々は胃袋と共に心を癒してくれるだけでなく、よそ者の私にとっては郷土料理に触れる貴重な経験でもありました。赤貝ご飯だけでなく、海苔と小豆の二種類の雑煮や魚のエイを食べたのも、賄いが初めてでした。 酒蔵なのですから、酒を搾りさえすればいくらでも酒粕があります。夕食前におばちゃんに頼まれると、圧搾機のそばに積んである専用の箱から、出来立ての粕をちょっぴり台所に運んだものでした。発酵中の醪から湧き出る“泡”を粕代わりに入れることも。蔵で働く人間の特権ですが、タンクに付いた泡をほんの少し鮒のアラ汁に入れると美味いのなんの。 記憶に残る食事は、人生をほんの少し豊かにしてくれるような気がします。紡でのひと時も、そうあってもらえますように。(2018.1.15)
紡だより vol.20 記憶に残る食事
更新日:2019年1月11日
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