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執筆者の写真tsumugi

Vol.24 迷惑をかけるということ

                                     2021.2.4                     


誰かが自分のために、動いてくれたり、気に掛けたりしてくれること。それは「迷惑をかける」ということなのでしょうか。


 そんなことを考えたのは、子供の成長を機に1カ月前から働き始めた友人の話がきっかけでした。各地に移動して、ワークショップを切り盛りする仕事。彼女は運転免許を持っていませんが、一緒に出向く誰かが運転して彼女を会場に連れて行くという条件で働くようになったそうです。でも、彼女のために同乗する人を探したり、都合を変えたりすることが少なくなく、だんだん肩身が狭くなってきたとのこと。出産までは福祉の業界に居た彼女曰く、「支援してもらう立場になったのは初めて。そういう雇用条件だったし、先方から何か言われたわけではないけど、なんか申し訳なくて」。


 彼女の下の娘はまだ幼稚園年少で、夕方になるとお迎えも必要です。お迎えに間に合う時間まで働くはずだったものの、時には遅くなることも。ご主人が代わりに迎えに行くことで何とかなったそうですが、そもそも自分の“都合”で早く帰ることにもやはり罪悪感らしきものが生まれたそうです。


【迷惑】その人のした事が元になって、相手やまわりの人が、とばっちりを受けたり、いやな思いをしたりすること。(新明解国語辞典第四版)


 本来、彼女は周囲に“迷惑”を掛けたわけじゃない。けれど申し訳なさを感じてしまう。それが今の世の中なんだろうなとつくづく。学生時代、私も福祉の業界に足を突っ込んでいました。24時間介護が必要な障害者に関わる中で、「障害者が当たり前に生きるために、介護してもらうのは当然の権利」という考え方が染み込みました。夜中のトイレ介護に気遣って好きなお酒を飲まない人には、「飲んでもいいじゃない」と伝え、おしゃれ好きな人には「脱ぎ着のしやすさだけで服を選ばないで」と言っていました。介護者の視点でなく、障害者自身の視点でまず、物を考えてほしいと強く思ったものでした。


 彼女の場合、「運転免許を持っていない」ということがその場で少数者だということも、申し訳ないと思う気持ちに拍車をかけたのでしょう。彼女の職場はそうではありませんが、時に多数者は、無意識に少数者の存在をスルーします。無料通話アプリ「LINE」がメジャーになってきたころ、スマホすら持っていなかった私は一時、ある団体の中で会話に入れず、決定事項だけ伝えられたことがありました。本人たちに悪意はなかったかもしれませんが、疎外感を覚えたものです。


 どうしたら、この「申し訳なさ」はなくなるのか。彼女に伝えたのは、次のことでした。「辞めないで続けてよ。運転できない人や小さな子供が居ても働ける職場が増えてほしいし、フォローしてくれている人の視野も広がるはず。今は貴女は人を頼ればいい。そしていつか、誰かにそれを返せばいい」。


 若かりし頃、本当に多くの人にたくさんたくさんお世話になりました。“迷惑”もいっぱい掛けました。でも、当時の私には何も返すことができませんでした。皆「出世払いでいいよ(笑)」と言ってくれたけど、出世もしていません。そうして考えるようになったのが、他の誰かに返すということでした。頑張りたいのに困っている人を、私ができることをできる形でフォローする、話を聴く、誰かにつなげる。まだまだ債務超過状態ですが、いつか借金ゼロにしたいものです。


 いつ自分が支援を受ける立場になるか分かりません。頼ったり、頼られたりが当たり前の社会を創っていきたいものです。

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