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紡 tsumugiが大事にしていること

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 大阪出身の私が、勤めていた新聞社の転勤で出雲の地に来て、まず驚いたのが「空が目の前にあること」でした。家々のわきにはあちこちに小さな畑があり、さまざまな野菜や果物が植わり、季節を教えてくれます。人参も里芋も30歳を目前にして初めて葉っぱの形を知りました。知人が増えると、時期になればまるで野菜や魚たちに足が生えたかのように、我が家にやってきました。本当の「旬」というものを実感したのもこの地でした。

 自然と向き合って大事に農作物を育てている人や、命懸けで魚を獲ってくる人たちに触れる中で、彼らの想いや、自然や季節の変化を感じることの喜び、それを食を通して味わう素晴らしさなどをじっくりと伝えたい――。それが紡の原点でした。

 綿から繊維を引き出し、よりをかけて糸にすることを「紡ぐ」と言います。この場所が、人と人が紡ぎあえる空間、自分自身の過去と未来を紡げるような、穏やかで命を吹き込むような空間になればいいなと思って、名づけました。

 もともと料理を勉強してきたわけでも、出雲地方のことを知り尽くしているわけでもありません。ただ、たくさんの人に知恵とエネルギーを頂きながら、地元にある旬の野菜たちを、丁寧に、想いを込めて料理しています。

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門脇 奈津子

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身土不二と“ばっかり食”

 「体と土とは一つである」とし、人間が足で歩ける身近なところ(三里四方、四里四方=12キロ、16キロ)で育ったものを食べ、生活するのがよいという考え方が「身土不二」です。


 そこで息を吸って吐き、水を飲んで生きている私たち自身と、私たちが暮らす土地や環境、それらが生んだ作物や他の動物たちとは切っても切れない関係にあります。だからこそ、できる限り地産地消を、と思うのです。


 紡は、旬の時にたくさん獲れるものばかり食べる“ばっかり食”満載です。筍の季節なら、揚げ団子に木の芽和え、ご飯。茄子の季節ならコロッケに煮物、味噌汁など、コースメニューに同じ素材が数品入ることもざらです。味付けや調理法を変えた旬の野菜をお楽しみ下さい。

調味料のこだわり

 新聞社を辞めたのち数年間、縁あって冬の間だけ出雲の酒蔵で酒造りに携わっていました。米や水という原材料からこだわり、丁寧に麴や醪、酒を育てゆく過程で他の調味料にも関心を持つようになりました。


 同じ素材でも調味料一つで味が変わります。基本の調味料だけは、丁寧に作られたちょっと上等のものを使っています。できるだけ地元・島根県のものを使っていますが、「これは!」というものは県外のものも取り入れています。
調味料例:隠岐國 海士乃塩(島根県海士町)、岡茂一郎商店の醤油(出雲市平田町)、角谷文治郎商店の三河みりん(愛知県碧南市)、飯尾醸造の富士酢(京都府宮津市)、影山製油所の菜種油、胡麻油(島根県出雲市)、きび砂糖、甜菜糖

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器のこだわり

■出西窯
 陶器は土から作られます。身土不二の考えから、やはりできるだけ器も地元のものを使いたいなあと、隣町、斐川町出西の器を多く使っています。シンプルでかつ洗練された色と形は多くの料理を引き立ててくれます。


■骨董
 若い頃から、器は好きでした。深い理由はないのに、時を経た器に惹かれ、旅先でよく、一つずつ購入していました。器は割れるものです。何十年も前から割れずに私たちのもとにやってきてくれたことが奇跡の一つ。昔の職人の技術の素晴らしさや、使っていた人のことを思いながら、料理や飲み物をお出ししています。

五感で味わう

 料理はもちろんのこと、器や盛り付けの仕方、店のインテリア、私が着ている和服、外の鳥や虫の鳴き声、風の匂い――いろんなものを五感で味わって季節を感じてもらえればと思います。


 食というのは、空腹を満たしてくれるだけではありません。命の源になるものです。
 口だけでなく目や耳、鼻、触覚を働かせてもらうことで、食べる以上のエネルギーをもたらしてくれると考えています。

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古きもの、手仕事

 看板を出していない紡tsumugiの“看板代わり”が丸い扉の玄関です。酒蔵で実際に使われていた樽の蓋で、よく見るとタンクの番号も記されています。この蓋は、店内のカウンターや椅子にも使っており、何十年もの間、蔵で活躍してきた何とも言えない風格を醸し出してくれています。他にも酒造りに使われていた道具や、昭和初期の水屋、ちゃぶ台、掘りごたつの櫓、かまどの蓋など、照明器具などかつての職人たちが一つ一つ丁寧に作った品々が、店内では今も活躍しています。


 手仕事で生まれた品々は、長い年月を経ても壊れるどころか、より深みを増してゆきます。それらが紡ぎ合って生まれる、何とも言えない穏やかで温かな空間も味わって頂ければと思います。

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Tsumugi Photo

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